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批評

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↑パンクラスみたいなデザイン

クロス・レヴュー 1981-1989 : MUSIC MAGAZINE増刊


老舗音楽誌ミュージックマガジンの名物企画『クロス・レヴュー』の
80年代掲載分を当時の記事そのままに復刻編集したアーカイヴ本。
音楽誌に不可欠の毎月リリースされる新作レヴューではあるが、
編集部が選んだ7枚のアルバムを4名のライターが10点満点で採点して
論評する独自のスタイルになっていて、
これはスタートした81年1月号から現在まで不変である。

当然、それぞれのライターの得意、不得意なジャンル、好みもあるので、
同じ作品に対して4者4様の採点、論評が繰り広げられるのが見所。
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↑ウチに所蔵されている80年代の本誌。スリッツ、クラッシュ、スカ、ヒップホップ特集等

リアルタイムで読んでいた記事や、今も保管している号もあるが、
とにかくこれだけの量(450p) 、しかも80年代を網羅した(9年分約750タイトル)
記事をまとめて読めるのは嬉しい。
実はそれほど好きなコーナーだった訳でもないのに充分楽しめる内容だった。

過去のレヴューを読むということは、それぞれの作品がその後どのような評価を
されていったのか、売れたのか、売れなかったのかなど、経緯を知っている上で、
その発売当時の評論を読み返すのだからライター諸氏にとっては酷な復刻だ。
(事実、原稿の再使用を拒否したライターもいるようで、未掲載になっている回もある)
発売当時は酷評されたのに、時を経て評価された作品や、
素晴らしい内容でありながら理解されなかった作品、
逆に評論家ウケは良くても全くセールスに結び付かなかった作品、
それ以前に評論した当人が後に評価を改めたパターンなど様々である。

発売前にレコード会社やレーベルから送られてくる、
おそらくカセットテープか何かで新譜を聴き、
第一印象を頼りに僅か15行(210文字)程度のレヴューにまとめなくてはならないのだから
非常に難しい作業だと思う。
そのアーティストや作品の背景などを解説していたら、
とてもじゃないけど枠内に収まりつかない。
そもそも現代の様に検索したら瞬時にして世界中のアーティストの情報が得られ
る時代ではない。
予備資料が少ない分、音そのものを聴いた印象や気分を基に書くレヴューになり、
そこに大いなる誤解が伴っていたりする。
結果、作品の内容に一切言及してない文章や、2行で断念?した
レヴューなどあってとても面白い。

例えば、JBバンバータの歴史的ユニットによる『ユニティ』 (85年)
の北中正和氏のレヴューなんて
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「三波春夫に通じるスピリットが楽しい、まぶしい。」(7点)

と、これだけ。
このユニット自体を理解できなくてこう書いてるのか何なのかは不明だが、
もし僕が書くとしたら、
いかにこのコンビネーションが特別な事かを力説してしまうだろうし、
ある意味これだけの文字数で表現していることはライターとして
優れていると言えるのかもしれない(三波春夫を持ち出す意味は?だが)。

「歴史上、最も売れたアルバム」としてギネス認定の
MJ 『スリラー』 (83年)は、
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6点が2人、高橋健太郎氏は1点、
中村とうよう先生に至ってはハッキリと「嫌い」と明言した上で

「黒人の最も堕落した姿」
「こんなにも安っぽい音楽が作られたことを後世の歴史家のための
資料として永久保存しておくべきレコード」(0点)

と締めている。
どうして黒人の堕落した姿がこうなるのかは不明だが、
ここまで断言されると返って清々しい。
0点と言われると、逆に聴いてみたくもなるので、
100点付けるのと同じようなものかもしれない。
結果として歴史に名を遺した作品になったので、
この論評もあながち見当違いとも言えないのかも。
Amazonのユーザーレヴューにこの原稿を掲載して、
「このレヴューは参考になりましたか?」って反応を見てみたい。

とにかく、前述の通りライターにとって厳しい条件で毎月のレヴューを成立させ
るためにはある種の開き直りというか、独断と偏見が必要になってくる。
このコーナーを名物企画にしたのは、やはり先にも名前を挙げた当時の編集長、
中村とうよう先生の豪快な、ぶった斬りレヴューであろう。
この方、80年代中頃からじわじわと勢力を拡大してきたヒップホップやラップ系
の作品に対して、とことん辛口な批評と否定的スタンスを取り続けていた。
数々のヒップホップ名盤に下した評を抜粋してみると。

RUN-DMC / Raising Hell (86)
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「(ラップは)差異なんて微細なもので、どれ聞いたって同じだよ、と言い切っち
ゃう乱暴さこそ正しい。という意味でいまごろ出るラップのレコードはすべて
5点以下。これが1年後ならすべて3点以下。(5点)」


BEASTIE BOYS / Licensed To Ill (87)
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「なんと言おうとメロディのないシャベリなのだから言葉がわからずに面白いは
ずはない。(中略)英語の俗語が完全にわかる人以外がいくら面白いと言っても
信用しない。(5点)」


PUBLIC ENEMY / Yo! Bum Rush The Show (87)
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「こんなものをみんなが面白がっていては黒人音楽の衰亡は加速され、
とりかえしのつかぬ破滅を来たす。まさにラップは黒人民族の敵だ。
一刻も早く撲滅しよう。(0点)」

他にもL.L.COOL J.あたりも酷評されて0点と、正に言いたい放題。
RUN-DMCの評に、
今頃出るラップは5点以下、1年後なら全て3点以下と断定しているが、
あれから既に四半世紀近くの歳月を迎えようとしている現在も
ヒップホップの作品は世界中でリリースされ、
ポップミュージックのメインストリームになっているし、
中には歴史的名盤や革命的な作品を世に出したアーティストもいる。
それら全てが3点以上の評価に値しないのだろうか?
と四半世紀前の論評に真顔で抵抗したくなる。

当時は他の評論家先生方もラップに対して一様にアレルギー反応を示し、
やたら「言葉の壁」について指摘していたが、
全ての外国語で歌われている音楽が該当するはずなのに、
なぜかラップだけは
「メロディがないのに言葉が理解できないと楽しめない」
といった風評が大半を占めていたものだ。

それにしても、パブリックエネミー(以下PE)に関しては徹底的に非難するスタンスを崩さず、
上記1stに続いて大名盤2ndまでも「リズム感が悪い」と0点の評価、
最終的にはPE来日時に中村とうようvsチャックDと言う興味深い対談までやっている。

ヒップホップは当時明らかにニューウェーブ的というか、その新しさ故に魅力が
理解できない人は戸惑い、躊躇したりしたが、新しい音楽との向き合い方として、
何かしらの意思表示が必要だったのだろう。

中村とうよう先生の暴論は他にも多数ある。
極めつけはスティーヴィワンダー、81年作品に対する一文
これが凄い。
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「視覚障害者への偏見と言われるかもしれないが、
やはり充分に世の中が見えてない限界もチラッと感じる」(6点)

本人も自覚しているからこその「偏見」発言だろうが、現代社会において、
こんな論評をメディアに掲載したら即日海外にまで飛び火し大炎上となるだろう。
時代が違うとは言え、こんな一文がさらりと載っているのに驚いてしまった。

あと、最後に僕自身が好きなアルバム
トムウェイツ 『レイン・ドッグ』 (86年)について
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「出た。オレのいちばんキライなやつ。嫌悪というより憎悪している」(-10点)

…。トムウェイツを嫌いなのはいい。
評論するのに、評者の好き嫌いを持ち出して書くのもありだとは思うが、
アイドルのレコードなんかにもわりとちゃんとした評を書いているのに、
トムウェイツ嫌いだから0点を飛び越えてマイナス10点って。

と、まぁこのように自分の好きな盤について、
どう評価されていたのかを片っ端から確認していくのが楽しい本だ。
紙質まで再現しているのも良い。
が、ここまでやってるのに先述の理由から記事が完全版でないのは
非常に残念だと思う。
価格も含めて→ ⑦点 くらいか。



本の分厚さに比例してこの文も長くなったな。
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by imag0020 | 2010-09-28 16:08 | My Favorite Things
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DJ / 音楽評判家 / 80's洋楽王 / マットマートンファンクラブ / アイマグ編集長


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