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アイマグブログ― カマタヒロシ 

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終了

これが無ければ始まらない、
僕らの活動全般を支えてきた最重要機器
テクニクスのターンテーブルSL-1200シリーズの生産がついに終了した。
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初代機であるSL-1200が世に出たのが1972年、
約40年近くもの長きに渡って世界中の音楽シーンに貢献してきたギネス級の発明品だ。
元々はオーディオマニア向けに発売され、海外の放送局などから高い評価を受けた
レコードプレイヤーである、このシリーズ、
今では世界中のクラブ、ディスコはモチロン、カフェやバー、ショップやオフィスなど、
アナログ音源を再生するありとあらゆる環境で使用されるほど普及している。
しかも、その多くが複数台のターンテーブルを設置しているのだ。

90年代後半のファッション誌などで、オシャレな部屋特集みたいな企画があると、
必ずと言っていいほど、iMacのデスクトップと、このSL-1200×2台にミキサーが
まるで必須アイテムであるかのごとく鎮座している光景があった。

では、なぜSL-1200は、これほどまでにDJ、クラブミュージックシーンにおける
スタンダードになりえたのか。
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まず、第一の理由は、ダイレクトドライヴ方式の発明だろう。
特別なモーターを使用する、この方式の導入によって、
レコードを直接手で逆回転させて曲の頭出しをしたり、
レコードだけ回転を停止させて静止させたりが可能になった。
つまり、DJがミックスやスクラッチをするための基本動作であり、
この方式が発明されなければクラブミュージックの現在に繋がる
発展はなかったのである。

最初にスクラッチを知った時、見よう見まねで家庭のステレオに
付属されてあるプレイヤーでレコードをコスってみても、
全然上手くいかなかったという経験は多くの人がしているのではないか。
初めてSL-1200を触った時は本当に興奮したものだ。

その後、曲のピッチを自由に変化させられるピッチ・コントローラーや、
高さの調節が可能なアーム、大音量・音圧での使用時に起きるハウリング、
振動に耐えうる安定感というクラブやディスコのヘヴィ・ユースを念頭に置いた
様々な改良を重ねて、開発された SL-1200MK2(通称マーク2)の発売によって
一気にシェアを拡げていくことなったのだ。

テクニクスのオーディオメーカーとしての本来のマーケットの対象は、
音響マニア向けの高級で繊細な商品の開発だったはずが、
真逆とも言える過酷な環境での使用に対応しなくてはならなくなったのだ。

しかし、この徹底した品質へのこだわりが圧倒的なDJからの支持につながった。
その後もMK6(マーク6)まで発売されていくことになるが、
ピッチ・コントローラーのリセットボタンなど細かい改良はされても、
主要装備・外観はほとんど変化させていない。
例えば、携帯機種を新しく買い換えたら微妙に操作を憶え直したりする手間がある。
ターンテーブルが新しくなっても、DJはすぐに向かうことができるのだ。
クラブによって全く異なる機種を使っていたとしたらどうなるのか考えただけで怖い。
また、現在はCD-Jが一般化されているが、
これだって基本的な操作はアナログと同じにしてある。

やはり操作性を簡単にしたこともSL-1200普及の一端を担っていると思う。
シンプルで簡単に使えて、自由度が高い。
このことがDJの可能性を無限にしたのだと。

最後に、僕は20年近く前に入手したマーク2をいまだに使っているが、
カートリッジの交換以外にこれといったメンテナンスもしていなくても
全然故障していない。ホントにタフなのだ。
生産終了の理由の一つには、
ここ10年でアナログ・レコード共々プレイヤーの売り上げが下降したことが挙げられるが、
そもそも、これだけ丈夫で、なおかつ目立ったモデルチェンジがなければ、
一般ユーザーはまず買い換える必要もなかっただろう。
要するに今までに生産した台数で、僕らが生涯レコードを再生する分くらいは
充分世の中に存在しているのかもしれない。
あまりにも完璧なスタンダードを作ったテクニクスのコンセプトが
この生産終了を招いたのだとすれば皮肉な結果だ。
僕らはまだ当分SL-1200にお世話にならなければならないが、
あらためて、この時代を超えた名機に感謝したい。





*ちなみに、超絶スキルでターンテーブル(最近の若手は「タンテ」などと略して言ったりする...)を
駆使するターンテーブリスト達の中には、Vestax社の方が機能が優れているという意見もあるそうです。

by imag0020 | 2010-12-03 21:11 | My Favorite Things

DJ / 音楽評判家 / 80's洋楽王 / マットマートンファンクラブ / アイマグ編集長


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